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この物語は、本作の主人公「零轟曹」が骸略自衛隊へ入隊する数か月前・・・
羽田テロが発生するその前兆を綴った軌跡の一部である。
・・・・・・
番外編 Special Operations Forces 特殊作戦部隊
『データ照合完了、目標は米国陸軍装甲車両と判明
有明方面にて毎時40キロで進行中。』
人間一人の視野を多い尽くすバイザー越しに無数の光が流れていく、
水晶体に映り込む景色は灰色もあれば虹色もあり原色すら扱う類は見ていて疲れる程だろう、しかしその彩色は安易な表示ではない、情報量を視覚化して脳へ送り込む際に必要不可欠なものだ。色彩を認識する事で今後できる事が解っていく
一時的な視力検査の様なプロセスを通過する感覚だ。
ブルーバックが過り、プログラム言語の羅列と共に本来の画面が起動する。
規則的に並ぶ計器と標準(レティクル)視線に連動する様に蠢くマーカーが映り込むと、座席から映る視界が変化し地面から数メートルの高低差を作る
座席は小刻みに振動しトルクから齎されるパワーの行き渡りを示し尻を浮かせ
握りしめた操縦桿からの指示が電気信号となってシリンダーとモーターを操る。
やがて暗闇に灯る七色の電飾が立体感を会得し企業ロゴや店名を明確に表す。
簡素な照明が激務に疲れたサラリーマンを照らすビル、一流建築デザイナーが設計した流線型フォルムが全体を構成する超高層建造物等不釣り合いともとれる人工物の羅列がひたすらに立ち並ぶ大都会、その当たり前の光景を彼らは行き来していた、路上の車や人波を欠き分けただひたすらに疾走する。
全長は7.8mといったところだろうか?乗用車から手足が生えた様な基礎設計と
搭乗者を包み込む様に保持するコックピット、目元にはVRゴーグルが付けられ
閉鎖的な環境に反した開放的な視界を乗り手に与えている。
目の前に絶え間なく広がるのは膨大な数の街灯やビル灯り、ネオンに投射式ホログラフ
首を下ろせばアクセルを踏み込んだ足元が見え、左右に視線を向けると
グリップレバーを握りしめる手元が見える、
現実の光景ではない、機体のOSと連携プログラムによって投射された疑似的な視界、だがそれは限りなく実際の動作を反映させた高密度なリアルタイムを実現させている。
ゲームとは異なり寸分の誤差も許されない兵士の動作は常に高い演算力と
高速で反映させる投影技術が必要になる。
この芸当も頭の飛び出た開発元があってこそだろう・・・。
歩道橋の隙間から白い人型が屈んで路面を滑る様に現れた。
それは一体ではない、
緻密に計算された連携をとる様に二体三体と続き四体の白い人型が後に続く
動きは異常に滑らかだった、
シリンダーとモーターの駆動が限りなく生物を模範した様な挙動。
だが生き物とは違う、魂すら宿らず機材へ電気を流し駆動させている事に変わりはない、
「白い骸骨」抽象的に表わすとしたらこの言葉が相応しい。
「リーヴドライブ」又は「人型自在伝導走行機器」と呼ばれるそれは
技術発展と資金に恵まれたこの国の恩寵である。
治安維持や自衛等に用いられる本機は今やすっかり大衆の目に馴染んでいた、
ニュースや番組内でチラリと映っても物珍しさに目を凝らすのは子供や田舎者位だ。
屈んでいた体勢を直立に整えると白い骸骨達は連なって夜の市街を走り出した
再び外部からの通信が入る。
『尚、対象はホログラムで擬装している 一般車両への誤射に気をつけろ。』
「ZELDA1了解、全機残弾数を確認しろ」
流れる背景の中左目の下に数値とバレット弾を思わせるマークが連なって浮ぶ
操縦桿のスイッチを押し右のレバーを胸元まで引くと
白い骸骨は腰に抱えている銃器を取り出した
ロックが解放され安全装置が切り替わると白骸骨は市街地のビルが連なった僅かな段差のある頂上に向けて発砲する。
その先にいたのは白骸骨とは違った黒い人型 直撃を受けて倒れこみ
そのまま落下する。
視界のマーク表示から獲物の撃墜を確認し達成感を得た男に通信が入る、同じく連携を取っている隊員だ
「しかし、隊長今回の作戦内容少し非現実過ぎませんか?」
白骸骨に乗っている隊員の一人がボヤく、職業にしては童顔であるが
その獲物をい竦める眼光は兵士のそれであり
精巧な顔立ちは積み重ねた場数と計算されたカリキュラムを熟し、定められた通過点を目の覚める習得率と速度で次々と会得した年相応のバイタリティと計算高さが漂う
しかし今日はその理知的とも言える横顔が疑問に満ちていた
彼の用いる知識の用途、又は美学とも呼べる思考に今回の事態は大きく反している
いくら何でも突拍子が無さ過ぎるのだ・・・・・・売れるゲームでももう少し慎重である
「こんな市街地に米軍が沸いていたら、この国とっくに終わってますよ・・・」
隊長が空で聞き宥める
「俺に聞くな、今回の作戦に文句があるなら聞くべき相手がいるだろう」
管制室に映される白骸骨達を見つめるのはやや背の低い女性
胸元の開いた黒のケブラー製ジャケットの下にタンクトップを着ており
腕を組んだその上には既存より二周りはある膨らみが便乗している。
女性は全ての無線に響く程の声量で高らかに告げた、口調はやや乱暴だ
「常に最悪を想定する事は鉄則だが知識の範疇っつーのは限られてるもんだ、
己の利点、欠点を知り尽くした上で尚想像力を働かせる事にこそ意味がある。
硬い頭で想定し得ない状況こそ今のお前等には必要なんだよ。」
女性は自論を掲げ不敵に笑みを浮かべるが
歳に似合わない幼い顔立ちが台無しにしているのは否めない。
「それ、古巣での経験すか?」
真ん中分けの綺麗な金髪に不釣合いな眉間に皺を蓄えた男が茶化すように聞く
女性は古巣という言葉に反応したのかやや不機嫌そうに男に説いた、
『過去は悔やむのではなく 活かすものだろう?』
「なるほどね・・・」
屈強な面持ちの隊長が殿の四機目に問いかける
「ZELDA4索敵状況はどうなってる?」
ZELDA4のコールサインをもったウェーブ髪の優男が状況を伝えようと
視界に表示されたコンソールを弄りレーダーを表示する。
「ちょっと待って下さいね、
・・・いやいや 待て待て多過ぎねぇか なんじゃコリャ」
レーダーを凝視する中およそ50体の敵機に囲まれているのが見える
「これも想像力ですか?」
「ま、俺は楽しめるなら何でもいいッスよ」
『緊張感の欠片もねぇなお前等、あーもう!!はやく任務にあたれ・・・!!』
女性が頭をくしゃくしゃと掻き管制室から浴びせた一喝にあわせ
白骸骨達が陣形を変えていく
オペレーターよりの通信、特定行動を起こす為の事前準備が整った事を告げる。
『HQオオタよりZELDA各機へ、
都内全域における電磁干渉警報は完了した・・・存分に飛んでくれ。』
「ZELDA1了解!!
「全機、サーマライザー始動 電圧確認」
白骸骨の背面から稲妻が走ると
それは瞬く間に宙に舞い上がった・・・。
―――仮想演習プログラムの終わりを告げる表記がVR視界の奥に並び
視界がシャットアウトする。
閑散とした室内。
灰色がかった強靭な材質によって作りこまれた壁は
周囲の隅々を覆い尽くし非常に閉鎖的だ。
上には数え切れない程の証明が連なり 強すぎる明かりは何処か焦げ臭い
鋼鉄の柱と鋼鉄の壁によって彩られるその無機質な物体の羅列は
オイルの香りが染み付き独特な年期すら放っている。
その中でも一際異彩を放つものとして先ほどの白骸骨は存在していた。
全部で五体、柱に守られ収納領域に収まっているそれは
人間で言う「体育座り」に近い体勢をとっており
両腕は握りこぶしを地面に着かせ
腕立て伏せに近い構えを取っているのがなんとも滑稽だが
機体の重量を支える杖としても見事に機能していた。
その白骸骨の背面コックピットハッチとして設けられた
卵型の構造物がずらりと横に並んでいる
予め施された亀裂にそってゆっくりと割れる様に
その殻の連結箇所が離れていくと
中から押し出される様に固定された黒い座席が現れた
その座席に腰を落ち着かせているのは先ほどの男達 部隊の構成員だろうか?
黒のケブラージャケットに黒のズボン
山吹色がかった反射板が格納庫の証明に反応し強い光を放っている。
座席は引き続き内部に施されたレールに沿い地面へと下がっていくと
寝かされる様に倒れ設置面を確認しその規則的な動作を停止した。
寝そべる様に座り込む構成員の周りに
整備士と思われる男達がわらわらと走り寄って来る、
白骸骨の点検を始めている様だ
そのあらましを上から見上げる様に先ほどの巨乳小柄女はいた
片手にスパナを持ち肩叩きのの様に使っている様はなんだか年寄りくさい。
「政治的動物であるだけではない・・・ 人は何より個人である・・・か」
索敵担当の優男がルートヴィヒの言葉を呟き座席の固定具を外すと
既に雑談の輪を作っていた構成員達の輪に入って行った。
金髪般若面が更に眉間に皺を寄せ考え込んでいると隊の隊長が助言した
「しっかし変ですよねぇ、リーヴドライブって元は日本製っしょ?
どうして二番手の米国製に勝てないんですかね・・・。」
「日本と米国はルーツは同じだが
一連の事態をきっかけに管理や納品先が枝分かれしたのさ
解釈が変われば強さも変わってくる・・・そういうもんだ。」
国が変われば同じ品でも扱いが変わる、それは兵器に限った話ではない。
「それにな もしかしすると、可能性の話としてだが
俺達はコイツの隠された性能を十分に発揮できてないのかもしれんぞ・・・」
「やめてくださいよ、俺達が未知の力に目覚めたりするって言うんですか?
どこぞのロボットアニメじゃあるまいし・・・」
すると隊長は点検を受けている白骸骨を見上げ語った
「そうじゃない、手の一本一本、足の運び 踏み込み方から推進器の扱い
その挙動全てに至るまで コイツにはまだ伸び白があるって言ってるんだ・・・。」
「伸び白ですか・・・」
「僕等はスペシャリストですよ、それが出来ていない筈が無い。」
「なら、あのシュミレーターがどんなに非現実な内容でも対処出来た筈だ。」
「うぐ・・・」
童顔の青年がたじろぐ、確かに50体の猛攻に唖然として隙を作ったのは致命的だ。
「つまりこれが現状、俺達には想像力はあっても、
それを現実と受け止め耐処できるだけの柔軟性がまだない
今回はそれをお前達に自覚させる為、プログラムを組み
整備班長にご協力願った訳だ・・・。」
隊長が顎で指した先に整備班長と称される巨乳スパナ女がいた
うやうやしく笑みを作り小さく手を振っている。
「きったね!!・・・そういう事ッスか!!」
何かに気付いたように身を乗り出す金髪般若がバランスを崩してすっ転ぶ
「あたし等にハメられてるようじゃ先が思いやられるな、
ああ、あとそこオイル零れてるから気をつけ・・・遅いか」
「おー後頭部から行かなくて良かったな顔は元々ぐっちゃ崩れてるからプラマイゼロだ」
優男が皮肉ると鼻血を流した般若面が覗き討ち付けた皮膚から赤鬼が出来上がっていた。
童顔の青年が呆れた顔でそのやり取りを見終えると隊長に向き直る
「それに経験も何も、起きませんよ50体の機体を相手に総力戦なんて・・・」
「確かにな・・・だが、俺達が今の今まで行なってきたのは
あくまで他国干渉と治安活動だ、本当の「戦場」で戦ってきたヤツが
コイツを動かしたらどうなるのか・・・見てみたくはないか?」
「興味ないですよ、僕等は自分達の庭と供給が絶たれなければいいんです・・・」
「うぐぐ・・・こうなりゃ隊長!!今日の訓練は終わったし飲みに行きましょ飲みに!!」
金髪の赤鬼という何だかわからないものと化した男が酒の席を欲すると
男達は格納庫の出口に消えていった。
やや静まり返る格納庫、一人残り物思いに耽る隊長に女整備班長が近づいてくる
「すまんな、班長、司令不在の時に無理を言って」
スパナ巨乳策士女元 整備班長はやんちゃな子供を寝かしつけた親の様に溜息をつく
「しゃぁないさ、あいつ等が入隊した時より驕りの方向に走ってたのは
あたしも内心強く感じてたんだ・・・今回は利害が一致しただけさ」
「助かる・・・確かにあいつ等は強い、他には無い良いものを持ってる
俺とて此処に来るまで生半可に海保をやってた訳じゃない・・・だけどな。」
「違和感、危機感、疑問を具体的に表わす言葉は幾らでもある・・・
だが、その漠然としたものが俺はどうにも掴み切れん、知らなければ不味い気がする
形すら違わない溝に程よくすっぽりと当てはまったとしても
何時強い圧力がかかり潰され、支えを見失うか、その時俺達は同じ形を保てるのか」
整備班長は目を細め物憂げに説く
「機械も同じだな、
良い部品を支えるのも一つ一つがしっかり役目を果たさないと務まらん
あいつ等は緩みきったボルト、良いビスやナットに何とか支えられてる様なもんか」
「その圧力が来るのは明日かもしれないし、もしかしたら
既に覆われているその圧力から俺達はただ守られているだけかもしれない、
しかしその事に感謝こそすれただ現状に寄りかかる事は怠惰と動議だ」
「変えるなら、速い方が良い・・・とっとと錆びが浮ばないうちにな。」
「ああ・・・」
その為の「強化訓練」と称した今回のプログラムであったが、
隊員達の当然の冷めた反応、理解はしていた、
そしてこれから起す行動も今の環境だからこそ強い効力を発揮する
一昨日、隊長「時峰・幸隆」は司令より事例を賜った。
内容は人事関連、新規隊員の導入と部隊の意識改革、というあらましである。
防衛大臣からの通達でもありその項目にはある特殊な条件も付加されていた
経験か緩みきった現状に刺激を加えねばならないという心根からか
時峰は司令の申し出に強く頷いたのだった。
NEXT・・・
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